お金の基礎知識

2024年05月22日

落語「江戸屋騒動 恨みの振袖」金返せとは言わせない

笑いだけじゃない落語の魅力

落語「江戸屋騒動 恨みの振袖」ライブで見てきました! 柳家蝠丸。やっぱりライブは格別。ところがそのライブ、噺家には苦労の種が増えている。開演の前に「携帯の電源を切ってください」と何回もアナウンスがあるのに、噺の途中にだれかの携帯の着信音が鳴る。今回も例外ではなく…   慣れた噺家は、それもネタの中に取り入れて笑い飛ばすけど、大変だなあ。

落語は笑って楽しむもの、ではあるが、夏に「ぞっとして」涼を取るために、怪談ものもいくつかある。番長皿屋敷を元ネタにした「お菊の皿」は、美貌の幽霊、お菊に会うために若者たちが通い詰めるという楽しい話だ。でも、「恨みの振袖」は違った。ひたすら怖い、恐ろしい。でも、このスジ、納得できないぞ。(以下、ネタバレ。ご注意)

悲しくて怖いストーリー

夫を亡くし、娘と2人で貧乏な暮らしをしていた女のところへ、名主が「息子がおたくの娘を見初めたので、ぜひ嫁にほしい。支度金の50両はこちらで出すから」と。婚礼まで日がなく、ふたりは江戸の古着屋で大急ぎで衣装を間に合わせた。婚礼の日は雨で、馬で嫁ぐ花嫁の着物は濡れてしまった。その地域では、花嫁が宴席のもてなしをする習わし。ところが、給仕の途中に着物の裾を踏まれ、粗悪品だった着物は破れて下半身が取れてしまった。花嫁は真っ青。名主は「こんな恥さらしな女は嫁にもらえない。帰れ、支度金の50両も返せ」とふたりを追い出す。その夜、娘は土手から身を投げて死んでしまう。残された母親は、騙して粗悪品を掴ませた古着屋を恨みつづけ、店主と家族を呪い殺す。母親が恨みを語り、店主を呪うシーンは恐ろしい。

でも、恨む相手をまちがってる

でも、納得いかない。納得いきません。もちろん不正直な商売をした古着屋は悪い。「正直に商売をしないと、こんな恐ろしい目にあいますよ」という教訓にしたいのかもしれない。しかし、もっと悪いのは、婚礼の席で花嫁を追い出した名主ではないか。さらに悪いのは、自分の嫁を守らなかった花婿ではないか。それが、この男が話に全く登場しないんだ。

花嫁の着物が破れたら、花婿は駆け寄って自分の羽織を脱いで隠してやり「大丈夫か、ケガはないか」と守ってやるべき。その父親は「お里、気にすることはない。あちらに行って着替えておいで」といたわってやるべきではないか。なんだこの父子。

しかも、自分から出した50両を返せとは何事だ。一度払った金を「返せ」などと要求できない。結婚の契約不履行で訴えられるべきは名主とその息子だ。父子の理不尽なふるまいを諌めない、とりなさない客たちも悪い。

「お母さん、恨む相手が間違ってますよ」と教えてあげたい。「お里さん、父親の言いなりで一言も発せない情けない息子と結婚せずにすんで、よかったじゃないですか」と声をかけてやりたい。世の中には、良い男はいっぱいいるよ。

令和の噺家に新しいストーリーを期待

明治2年に三遊亭圓朝がつくった噺とされているが、令和になったいま、もっとリアルなストーリーに改訂してほしい。母娘が機転で名主親子に仕返しをする愉快な筋はどうだろう。追い返された2人のところに、宴席を手伝っていた賢い女中が訪ねてきて、仕返しの算段を指南する…という具合にぜひ!

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